アンナプルナBCトレッキング6日目〈フィンの受難〉
フィンは真面目な好青年。
先にMBCに着いた時は、オーナーと交渉し僕の部屋代も無料にしておいてくれた。
Shitheadというゲームをした時は、丁寧にルールを説明し、紙にまでルールを書いてくれた。
ABCに行った時は、前夜21時には寝て、朝は4時ぴったりに起きて僕とサイモンを起こしてくれた。
まさに真面目なドイツ人。
そんなフィンだが、6/7にはカトマンズから飛行機でドイツに戻ることになっていた。
時間が無い中でのトレッキング。
そのため6/3には高山病予防の薬を飲みながら、1日で標高1700mから3700mまで駆け上ったらしい。
ABCに着いたのが6/4の早朝。
6/5にはポカラに戻り、6/6にカトマンズへ移動したいらしい。
なかなかの強硬スケジュール。
ABCで撮った集合写真にフィンがいないのは、その頃には既に下り出していたから。
なお、ガレンも写ってないが、それは彼が眠いと言って部屋に戻ったから。
くわえて、きっと時間的な問題だけでなく、真面目な彼にはこの不真面目なメンバーが合わなかったんだと思う。
僕は、フィンが先に下っていたことすら知らなかったので挨拶が出来ずに残念に思っていた。
きっとフィンはABCの滞在は一時間ほど。7時過ぎには出ていたと思う。
僕たちがABCを出た9時には、きっと彼ならMBCの次の村、Deuraliくらいまで余裕で着いているだろう。
なので、僕たちが重い腰を上げMBCへ向け下っている途中に、MBCから上ってくるフィンを見るとは全く思いも寄らなかった。
真面目な彼らしくなく、ABCに何か忘れ物をしたのかと思ったが違った。
少しキレ気味に言う。
「ドイツ人はどこにいる?部屋の鍵、彼が閉めて中に入れない。待ってても帰ってこないから、取りに来た。」
あー、なるほど。。オーナーもマスターキーを持っておらずどうにもならなかったらしい。
いつも鍵なんか掛けないサイモンが、フィンに感化されたのか、珍しくきちんと鍵を閉めたが故の受難。
フィンは、まだ上の方でふらふらしてるブラックサイモンの所まで行き、鍵を受け取ると凄い勢いで下りていく。
結局お別れの挨拶は出来ず。
サイモンは笑顔で
「あいつ、なんか凄い機嫌悪かったな。」
と。
「うーん、そうだね。」
ごめんね、フィン。
トレッキング6日目②ABC - Himalaya
9時。
ABCを出る。とても満足。
先頭は陽気なフランス人、ダミアンとガレン。
ダミアンの背中から流れてくるBGMを聞きながら、筋肉痛のことを頭の隅に追いやり歩く。
やはり彼らの足取りはとてつもなく早い。
必死に歩く。
ふと、自分の後方左側、道ではなく岩場から気配がした。
振り返った瞬間、満面の笑みを浮かべたサイモンが空を飛んでいた。
比喩ではなくそのままの意味で。
ありえない勢いのまま着地し、こちらの道に戻ってきた。
だめ。笑いが止まらない。
どうかしている。ぶっ飛んでいる。
どうしてあの勢いで飛んできたんだろう。どうして着地できたんだろう。
彼は僕らとは別のtripをしているようだ。
少し心配だけど山のプロらしいし放っておこう。
なお、その後サイモンはどっかの景色が気に入ったのかしばらくフリーズしていた。
なおなお、ウルグアイカップルは彼らのペースを諦め、手を繋ぎ楽しそうにゆっくり歩いている。
10時。
MBCに到着。放りっぱなしになっていた荷物を片付ける。
「だめ。片付けられない。」
笑顔のサイモンがそう言い、ベッドに倒れ込む。
楽しそうなダメ男。
10時30分。
しびれを切らしたダミアンとガレンが、ぐだぐだしているサイモン、ウルグアイカップルを放置気味で出発。
僕とABCで一緒になったドイツ人も一緒に出発。
しかしものの20分で、ダミアンとガレンは点になる。
ドイツ人は遅い僕よりも遅いペースなので、先に行かせてもらう。
トレッキングではペースが合わない人同士で一緒に行くことはあまり幸せなことではないと思う。
天気は少しずつ悪くなる。
僕もかなり早いペースで歩いているつもりだが、もうダミアンとガレンは全く見えない。
Deuraliに着いた時もその姿は見えなかったので、筋肉痛はかなりきついが休まずそのまま行くことに。
少しずつ雨が降ってくるも、まあ大丈夫かとの思いと、雨具を出すのが面倒臭いとの思いからそのまま歩いていたら、気づいた時にはどうしようもないくらいの雨でビショビショになっている。
完璧な判断ミス。ぼーっとしすぎた。今更だが雨具を出す。
雨は止む気配がないため、進むしかない。
雨で地面が濡れているが、スニーカーのグリップ感は悪く無い。
滑ることは全くなく、むしろ感触がダイレクトに伝わるので一歩一歩にいつも以上に集中できる。
なんだか楽しくなりペースを上げてみる。
ビショビショの道だけど大丈夫。
しばらく急ぎめで歩いていると、岩陰で雨宿りしていたダミアンとガレンに出くわす。
結構長い間雨宿りしていたのだろう。全く濡れていない。
どれだけ楽しんでいても適切な判断が出来ている。さすが。
10分ほど休憩するも、雨は一向に弱まる気配はない。
Himalayaまでは10〜20分で着くはずと考え、出発することに。
彼らに先を歩いてもらう。
彼らの歩き方にいつも以上に注視する。
彼らの歩き方を真似る。
一人でペースを上げて歩いていた時にもなんとなく思っていたが、彼らの歩き方と僕の歩き方の違いが明確に分かった気がした。
12時半。
彼らに離されることなく15分、Himalayaに到着。
アンナプルナBCトレッキング6日目①MBC - ABC
6/4、朝4時。
フィンの目覚ましが鳴り、目を覚ます。
わかっていたけど寒い。
昨夜までは、バックパックも持って行き気に入ったらABCに一泊しようと思っていたが、荷物を纏める根性は残っていなかったので、カメラだけを持ってレストランへ。
お願いしていたゆで卵2つをもらう。
今日一緒に行くのは僕を含め5人。
ドイツ人のフィン、サイモン、ウルグアイ人カップルのホセとエミー。
一人同じ時間に起きてきたフランス人がいたが、彼は天気が悪いと言って戻ってしまった。
そう、天気は悪い。
ライトが無いと歩けないほど辺りは暗いが、重たい雲が空を覆っているのはわかる。
とは言え行かないわけにはいかない。
4時40分。
足元を照らしながら出発。
1分でどちらの道が正しいか分からなくなり、ホセが宿のスタッフに聞きに戻る。
どちらでも大丈夫だと思っていたが、どちらでも大丈夫だった。
10分ほどで、日が昇ってきているからかライトはいらなくなる。
酸素の薄さは感じることはないが、筋肉痛はまだしっかりと残っている。
僕の足取りは重い。
しかし、バカなスニーカーを履いているはずのサイモンはやはり早い。
今朝も元気にダイモックスを飲んでいたフィンも早い。エミーも早い。
僕は、ホセちゃんを気遣うていでゆっくり進む。
氷河はあるけど、雪はなく歩くのに問題ない。
5時。
正直皆、日の出は諦め気味。
ケルンがいっぱいある場所があったので少し休憩。
来た道を振り返ると、マチャプチャレが雲の隙間から顔を少しだけ覗かせている。
右を見ると楽しそうなところを歩いている人がいるけど頑張る気にはならない。
大人しく緩やかな道を再び歩き出す。
ずっと遠くに見えていたABCの看板にようやく到着。
サイモンは元気に邪魔をする。
6時、ABCに到着。
見た感じは特に他のところと代わりはない。ただし、ダミアンとガレンがいる。
再会を喜んだ後、彼らが一服している間にちょっとうろうろしようかなと思ったが、後ろを振り返りすぐその考えが間違いだと気づいた。
6時8分。
6時12分。
日の出と息を合わせるように雲がどんどん晴れてくる。
数分前まで全く見えていなかったアンナプルナ山群が姿を現わす。
元気なサイモンが元気に叫ぶ。
「We made it!」
来てよかった。
晴れてよかった。
このずっこけ3人組とここで再会できてよかった。
皆でハイファイブをした後は、ABC奥の高台へ行って各々写真を撮ったりぼーっと山を眺めたり。
満足した後は、レストランのテラスで紅茶を飲みながら自分たちの来た道を望みながらのんびり。
とても贅沢なのんびり。
ダミアンのスピーカーで音楽を聴いていたら、ホセちゃん
「踊りたくなる。」
サイモン
「4000mより上ではNoルールだ。したいことは何してもいいんだ。」
踊るホセちゃん。笑う僕たち。
ダミアン
「暑いのか寒いのかわからない。」
服を着たり脱いだりするダミアン。笑う僕たち。
なお、サイモンのセリフは自分にも言い聞かせていたのだろう。
荷物をがさごぞし、嬉しそうに目薬を取り出す。
よく分からないが中身が凍っているらしく困っている。
最終的に僕のペットボトルの中に、蓋を開けた怪しい目薬を突っ込みしゃかしゃか。
僕は貴重なペットボトルと水を失う。
サイモンとエミーは嬉しそうに水をごくごく。
ブラックサイモンの出来上がり。
9時前。
ダミアンがバックパックへのスピーカーとソーラーパネルの取り付けをちょうど終えた頃、雲が出てくる。
ちゅっちゅしているエミーとホセちゃんを促し、MBCに戻ることに。
きっともう1泊しても、これ以上満足できることは無いと分かったので、僕もそのまま下山することにした。
アンナプルナBCトレッキング5日目②MBC
16時。
MBCに到着。
少し先に着いていたフィンは宿代タダの交渉済み。素晴らしい。
今回のトレッキングで初めてのドミトリー。
晴れていたのも束の間、ものの数分で霧が立ち込め雨が降ってくる。
写真を撮っている場合じゃなくなりレストランに避難。
ブラックティーを頼む。
チェスをしている人、本を読んでいる人、寝ている人、、
シーズンオフなのでやはり人は少ない。
チェス、、、頭のネジが飛んでいるサイモンだ!超嬉しい!
3日振りの再会。追いつけるとは思わなかった。
ただ、ダミアンとガレンはABCまで行っているとのこと。まあ翌朝には会えるだろう。
共にドイツ人だけど真面目なフィンと悪いこと大好きなサイモン。馬が合うのかちょい心配だけど別に一緒に居なければダメなわけではないので問題ないだろう。ドミトリーはこの3人だけど。
レストランでのんびりしてると、フィンがトランプをやろうと皆を誘う。
Shitheadと言うゲーム。英語圏ではポプュラーらしいが、僕やウルグアイ人カップルは聞いたこともないので、フィンが実演しながら丁寧に教えてくれる。
けど当然英語だからたまに理解できない。真面目なフィンは紙にルールを書いてくれる。好青年。
何となく分かったところで5人でやる。
フィンが1番に上がる。真面目なフィンは素人相手にも手を抜かないスタイル。
フィンはその後、僕の専属アシスタントになるも結果はべべ。
もう1ゲームやりたそうなフィンを横目に、天気が回復したのを見つけたウルグアイのホセちゃんがささっと抜けて外へ。
他の皆もそれに続いて外へ。Shitheadは初めての人には難しかったらしい。
外に出ると今までの宿とはレベルの違う景色が広がっていて思わずうわぁという声が漏れる。
山のスケールに圧倒される。岩肌の生々しさに驚嘆する。
ジオラマのセットの中にいるような非現実感。
僕が感動してパシャパシャしている横で、サイモンはいつも通りプカプカ。なんだったらウルグアイ人、アメリカン、カトマンズから来たネパール人もプカプカ。3700mとはいえそんなもん。現実に戻る。
19時前。
フィンが脱走したウルグアイ人の代わりを見つけたらしく、僕をShitheadに再度誘う。
19時にお願いしていたダルバートが来ちゃうんじゃないかと思いながらも人のいい僕は参加。
このゲーム、終わらない時はなかなか終わらない。
案の定、他の人にダルバートがサーブされてくる。
しかし僕のは待ってくれているよう。
安心してゲームを進める。
2位。
やるやん。
上から目線でゲームの続きを見ていると、サイモンが僕のダルバート冷えるぞ、と教えてくれる。
全然ダルバート待ってくれてなかった。
テーブルの奥の方に放置されてる。
食後。
外に出て皆でのんびり休憩。
寒いけど気持ち良い。
星が笑けるほど出ている。
暗いところに移動し、撮影しようとするも暗すぎて設定が見えない。
何度か撮るも満足できるものは撮れない。
この綺麗な星空は、頭の中にのみ詰め込むことにする。それで満足。
翌日は4時に起きABCへ。
晴れますように。
アンナプルナBCトレッキング5日目①Sinuwa - Machapuchare Base Camp
朝5時過ぎ。
目がさめる。
ふくらはぎの痛さが消えていないのにがっかりする。
喉の痛さも取れていない、鼻も少し詰まっている。
筋肉痛+風邪だ。
シヴァパワーは関係なかったようだ。
ゴロゴロした後、6時半頃に起きホットレモンを頼む。
7時20分頃、ポカラのおっちゃんの教えを思い出しガーリックスープも頼む。
泊まっていたロシア人が、アサが育ってると嬉しそうに教えてくれる。
Chomrongでは大規模に育てているらしいが、これは自生だろう。嗅いでみたけど特にわからない。
今日の一応のゴールはDeuraliの予定。看板によれば7時間ほど。
何となく考えている計画では、翌日MBCに泊まり2日後の朝にABCに行き、帰る。
Sinuwa - Bamboo : 2時間
Bamboo - Dovan : 1.5時間
Dovan - Himalaya :2時間
Himalaya - Deurali : 1.5時間
Deurali - MBC : 3時間
MBC - ABC : 1時間
8時15分。
出発。
筋肉痛はがっつりあるけど、昨日みたいに歩くペースに影響はなさそう。
途中で会ったアメリカ人は、今日中に景色の良いMBCまで行くと言う。
僕は無理そうだからDeuraliまでのつもりと言うも、このペースなら行けるよ、と彼。
9時20分。
Bambooに到着。
看板には2時間と書いていたから早いペースで歩けている。ラッキー。
アメリカ人の言った言葉を少し本気で考え出す。
10分休憩し出発。
10時20分。
Dovanに到着。
早いペース。コンディションは良くはないけど気にならないレベル。
先に出た中国人カップルが休憩している。へへ、追い付いた。
少し話し、彼らが高級飲料レッドブルを飲んでいるのを横目に先に出る。
今のところいい天気。道も悪くない。
途中で3人組(+ガイド)を追い抜く。
彼らも今日MBCまで行くと言う。むむむ。
11時40分。
Himalayaに到着。
相変わらず看板の倍のペース。やるやん。
このままだと14時くらいにはDeuraliに着けてしまいそう。
今朝ABCに行っていた人が休憩していたので少し話す。
彼女はDeuraliに1泊し、ABCに1泊したらしい。MBCの標高は高いし、あまり無理して今日行かない方が良いかも、ABCは日の出だけでは無く1泊する価値があるとのこと。
むむむ、どうしようかな。Deuraliに着いてから考えよう。
取り敢えずサンドイッチとホットジンジャーレモンティーを頼む。
そうこうしてると、追い抜いた中国人カップルとさっきの3人組にまたも再会する。
3人組の一人、ドイツ人のフィンが話し掛けてくる。
日本の漫画好きの彼。遠藤です、と自己紹介。
フィンはフランス語ではEndと言う意味だから、もじって遠藤とのこと。日本のおっちゃんには掴みはまあOKだろう。
彼は4日後にカトマンズのフライトを予約しているので、今日だけで標高1780mのJhinuから3700mのMBCまで行くらしい。ダイモックスを飲みながら。
12時20分。
出発。
気が付けば山肌から木々が減っている。
道も細い箇所が増え、さっきまでクリアだった視界が数分で悪くなる。
今まで見てきた川とは雰囲気が変わり、荒々しい自然が剥き出し。
怖いような楽しいような不思議な気分で歩く。
13時半。
Deuraliに到着。
時間も早いので、のんびり休憩をする。
またしてもHimalayaで会った皆に追いつかれる。
フィン達と話す。
よし、彼らと今日中にMBCへ行こう。そして翌朝カメラだけでなくバックパックも持っていきABCにも泊まろう。そうすれば夜景も日の出も二度見るチャンスがある。高山病は50円で買ったよく分からない薬もあるし大丈夫だろう。
14時10分。
出発。
圧倒的に荷物のサイズを間違えている彼女はすぐ遅れ出す。
何度かいい格好をしてバックパック交換しようかと言うも、あと少しだから、と頑なな彼女。
その後、かなりの石段を見て硬直していたのを横目に先に進む。
石段を終えたところで皆で待っていると、ガイドとバックパックを交換した彼女が現れる。
もやったり雨が降ったり晴れたりする中を歩くこと2時間。さすがに足が痛いがようやくMBCに到着。
Snuwa : 8:10, 2360m
MBC : 16:00, 3700m
16.2km